GREETING挨拶

五月女 幸雄 Saotome Yukio

五月女の光の王国
五月女幸雄 画集 ( 仏 Au MêmeTitre 刊 ) 序文より抜粋


 五月女幸雄の世界には、光が溢れている。緑の若葉がいっせいに歌いだすような爽やかな五月のきらめく光、涯しなく拡がる海原の上でゆるやかに舞う眼に見えない天使たちの翼から放射される黄金の光、樹木も草花も、岩屋も泉も、あらゆるものが生命のこだまを響かせる夢の楽園のまばゆい光~、光は五月女の画面を隅々まで満たし、支配し、活気づける。海辺に置かれた大理石の彫像や、窓辺の花や、あるいは街行く人々が思いがけない新鮮な輝きを見せるのも、すべてを包みこむような明るい光に照らし出されているからであろう。流れのほとりに腰をおろして清冽な水を両手ですくい上げる妖精のような少女は、光の滴りをのみこんでいるように見える。いや、この少女自身が、光の精であるかもしれない。五月女は、すべてを光の相の下に見る画家なのである。

 私がはじめて五月女の名前を知ったのは、今から四半世紀以上も前、1974年に開かれた弟一回北関東現代美術展で準大賞を得た作品を見たときである。そこには、画面いっぱいに晴朗な気配を孕んだ広大な海と空があり、どこか見知らぬ世界から舞い込んできた使者のように、洋上で奔放に踊る新聞紙があった。個々の対象はたしかな実在感を感じさせる熟達した技法で緻密に描き出されていながら、画面全体は、現実を超えた不思な幻想世界へと見るものを誘い込む抗い難い力を備えていた。徹底した自然観察に基く精緻な写実的表現と、そこから生まれる夢のような幻想性とは、その後も一貫して五月女の絵画世界を特徴づける魅力の源泉であった。

 事実、白い衣装をひるがえしてのびやかに踊る女性たちや、奥深い神秘を漂わせた森の様に、あるいは艶やかな肌を見せる鉢に盛られた果実や遠い世界の思い出を蘇らせる古代彫刻など、五月女の絵画に登場するさまざまなモティーフは、人物にしても、風景にしても、生物にしても、いずれも現実世界にその存在の証を持ちながら、われわれ日常の世界とは次元の違う豊麗な理想郷を形成するものとなっている。それはかつて詩人のボードレールが夢見た「豪奢、静謐、逸楽」の世界といってもよいであろう。
 
 その独自の幻想世界のなかで、光は次第に重要な役割を示すようになって来ている。五月女はどのような対象をも精彩に富んだ的確な筆づかいで再現するだけの卓越した技量の持主だが、それはただの現実描写でもなければ普通の意味での写生でもなく、彼が追い求める光の王国を支える重要な構成要素として、画面に登場してくるように思われる。彼の数多くの作品は、いずれも光を主題とした多彩な変奏曲と言ってもよいのである。五月女の絵画がわれわれ見るもの強く惹きつけてやまないのは、現代において忘れられがちの幸福感に満ちた理想郷(アルカディア)への夢を、卓越した光の表現を通じてわれわれに思い出させてくれるからにほかならないであろう。

高階 秀爾
( 美術史家,元国立西洋美術館館長,東京大学名誉教授 )
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YUKIO SAOTOME

五月女幸雄 Saotome Yukio]

五月女 幸雄  SAOTOME Yukio

1937年宇都宮に生まれる。高校卒業後「蕨画塾」にてデッサン、彫塑を学ぶ。埼玉大学教育学部)に進み彫刻と絵画を勉強する一方で、ベニヤ板やペンキ、石膏、布、紙、木屑、鏡などを用いて実験的な作品を作り始める。在学中より 「20代作家集団展」(1960/池袋三越)、「読売アンデパンダン展」 「新制作協会展」(1961~/東京都美術館)、「国際青年美術家展‐汎太平洋美術家展」(1962/銀座松坂屋)に出品。
1961年「埼玉前衛芸術作家集団」を結成。当時の県立美術館(浦和別所沼畔の展示場)をグループの足場に、60年代社会背景のもと前衛美術運動を拡げる。
また現代舞踊家たちとの交流を通じて舞台美術に携わり、舞台空間で得た新たな発想による制作を展開。
「毎日現代美術展-立体部門」(1969/東京都美術館)では、人間そのものをガラスケースに入れて展示し
大きな話題を呼んだ。「人間商品」 と題されたこのシリーズは、やがて「ザ・ボディズ」として都内数ヶ所で公開
(1970/六本木自由劇場、1971/渋谷スペースラボラトリー)。
翌1972年、ニューヨークに於ける同展は、絵画の原点を見つめ直し平面作品に戻る契機となった。
以後、絵画表現に集中する。
「国際青年美術家展」 (1973年/池袋西武百貨店) 
「第1回北関東現代美術展」準大賞 (1974/栃木県立美術展)
「日本国際美術展∼複製・映像時代のリアリズム」 (1974/東京都美術館)
「東京国際具象絵画ビエンナーレ」 (1974/渋谷東急百貨店)
「沖縄海洋博記年-海を描く現代美術展」優秀賞 (1975/新宿伊勢丹)
「今日の作家-今日の静物展」 (1975/横浜市民ギャラリー) パリ個展 (1975/ギャラリー/モランタン・ヌヴィヨン)
「安井賞候補作家展」 (1976~/西武美術館) 第4回インドトリエンナーレ(1978/ニューデリー)
1978年、「埼玉・美術の祭典」を立ち上げ、地域の美術運動を全国規模に広げる。«現CAF-Nebula»
1987年、パリに移住
サロン・ドートンヌ(パリ・グランパレ)に始まり、第24回コートダジュール国際絵画大賞展準大賞 (1988/カンヌ)
第28回オルレアン美術展大衆賞 (1988/オルレアン) 第23回国際現代絵画展(1989/モンテカルロ) 第5回アート・ジョンクション(1990/ニース) 国際アートコンペティション(1991/ニューヨーク) 第1回シャトー・ベイシュベル国際現代芸術センター招待作家に選抜 (1993/招待作家巡回展/ ボルドー, パリ, 東京サントリー美術館)
Yukio SAOTOME展(2012/Epernay市主催メディアテック) 個展(1991~パリ・ギャラリー・カプラン・マチニオン)
サロン・コンパレゾン委員(ART CAPITALパリ・グランパレ)。2006年、同サロンに日本セクションを創設し日本人画家の紹介に努める。2011年、アトリエをパリよりエペルネEpernayに移す。現エペルネ在住。
2023年2月 テイラー財団-Maxime Juan賞を受賞 (Art Capital/パリ・グランパレ・エフェメール)

作品収蔵美術館 東京都現代美術館、埼玉県立近代美術館、サントリー美術館、
栃木県立美術館、宇都宮市立美術館
美術館企画展    「五月女幸雄」展 (宇都宮東武百貨店)
「幻想の贈りもの-五月女幸雄」展 (池田20世紀美術館/2001)
         「幻想と迷宮」展 (埼玉県立美術館/2003-2004年)

YUKIO SAOTOME

五月女幸雄 Saotome Yukio]

1937年宇都宮に生まれる。1960年代、読売アンデパンダン展{東京都美術館}を中心に前衛美術運動に参加。鏡、紙、鉄板、木、絵具などを素材とするインスタレーション作品を発表を発表する。また現代舞踊の舞台美術に携わり、舞台空間で得た新たな発想による作品を展開。
1971年の「毎日現代美術展」(東京都美術館)では、人間そのものを展示した「The Body-人間商品」で物議を醸す。同年、ニューヨークでの展示を機に平面絵画へと移行する。安井賞候補作家展(第18回1975年)、日本国際美術展〈複製・映像時代のリアリズム〉(第11回1974年)、「今日の作家展」(1974年横浜市民ギャラリー)第1回国際具象絵画ビエンナーレ(第1回1974年)などに出品。油絵具と筆による緻密さによって創り出される独自の具象絵画世界は、美術評論家諸氏に高く評価された。「北関東現代美術展」(1975年)準大賞受章、「沖縄海洋博記年-海を描く現代美術展」(1975年)では優秀賞を受賞する。
1975年パリで個展。同時期に、東京日仏学院〈新しい画家シリーズ〉個展。
1987年パリに移住する。
サロン・ドートンヌ(パリ・グランパレ)入選に始まり、第24回コートダジュール国際絵画大賞展大賞受賞(カンヌ)。第28回オルレアン美術展大衆賞受賞(オルレアン)。第5回アートジョンクション(ニース),国際アートコンペティション(ニューヨーク),第23回国際現代絵画展(モンテカルロ)、第1回ベイシュベル国際現代芸術センター招待作家展(ボルドー、パリ、東京(サントリー美術館)。個展(ギャラリー・カプラン・マチニオン)

収蔵美術館 :
東京都現代美術館、埼玉県立近代美術館、栃木県立美術館、サントリー美術館 東京都練馬区立美術館、
東京都練馬区立美術館、
企画展: 「五月女幸雄」展 (宇都宮市立美術館)
「幻想の贈りもの-五月女幸雄」展 (池田20世紀美術館/2001)
  「幻想と迷宮」展 (埼玉県立美術館/2003-2004年) 

サロン・ドートンヌ、サロン、コンパレゾン運営委員。サロン・コンパレゾンに日本セクション創設し現在に至る。シャンパーニュ地方エペルネEpernay在住。

ARTIST作家

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2024/01/11~/02/03/10 五月女幸雄 Yukio Saotome 小品&ジクレー展
〈プレリュード〉油彩,73x92cm, 1989年作
<しだれ桜> ジクレー版画/原画:鉛筆,グワッシュ,水彩
137x97cm,2018~2020年制作
<黄昏のプレリュード> 油彩,65x92㎝, 1993年作
ジクレー版画とはジクレーGycléeとは 「インクの吹き付け」を意味するフランス語で、フランスが開発した
版画技法です。原画をコンピューターで解析し厳密に測定した上で、400万以上のミクロ粒子がジェット噴射されます。512色のインクの混合により7万色以上もの微妙な発色が可能で、現在最も原画に近い版画制作法として人気を得ています。顔料を 直接紙の表面に吹き付けるため発色の良さは特別で、耐久性も高く150~250年と言われています。作家自身が監修してプリント工房と共同で制作するジクレーは、新時代の " 作品 " と言えるでしょう